糖質制限の基礎知識
おしえて、先生!
糖尿病の原因は糖質?日本人は糖尿病になりやすいって本当なの?
監修 医師・大学教授 福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科学 川浪 大治
ねーきっつん、昨日ラーメン食べ過ぎちゃった。替え玉3つ!えへっ。
えへっじゃねーし。そのうち糖尿病になっちゃうぞー!
やだやだ、ビョーキになりたくない!
しょうがねーなー、川浪せんせーい、糖質をいっぱい摂っていたら、 やっぱり糖尿病になりますよねー!わかりやすく教えてくださーい!
糖質を摂り過ぎたら糖尿病になるのでは?と気にしている人も多いのではないでしょうか。実際に糖尿病になると、どのような食事にする必要があるのか専門の医師が解説します。
糖質の摂りすぎは糖尿病のもと?
糖尿摂取量と糖尿病の関係性
めたぬき、きっつん、こんにちは。今日は糖尿病と糖質の関係について知りたいのですね。
まずは、日本人の食の歩みについて、簡単に振り返ってみます。1960年代の日本人の食事は総エネルギーの70%を炭水化物が占めていました。たっぷりの白米に梅干しがのっていて、おかずはほんの少しだけ…いわゆる日の丸弁当が主流だった時代です。糖質をたくさん摂っていて、さぞかし糖尿病患者が多かったのではないかと思うでしょう?でも実際は糖尿病の患者数は今より少なかったのです。
だんだん時代が進むにつれて食事が欧米化していき、炭水化物の摂取量の割合は減っていきましたが、実は、糖尿病の患者数は増えていっているのです。それはなぜでしょうか。それは食事の欧米化によって脂質の摂取が増えたために肥満やメタボリックシンドロームが増えたこと、自動車の普及によって運動量が減ったことなどが糖尿病の発症に繋がっているのと考えられます。
日本人は糖尿病になりやすい民族!?
インスリン分泌が強い欧米人、弱い日本人
実は日本人は欧米人と比べると糖尿病になるリスクが高いといえます。その理由は昔々、数千年前まで遡ります。欧米人はもともと狩猟民族であり、伝統的に肉とじゃがいもを食べて生活してきました。動物性脂肪は多くのインスリンを必要とします。ですから血糖値を下げる働きをするインスリンを分泌する力が強い体質に進化をとげました。
対して、お米を中心とした低脂肪の食生活を長年続けてきた日本人はインスリンを分泌する力はそんなに必要がない体質に進化したのです。インスリンを出すパワーが少ないと、血糖値が下がりにくく、脂肪を蓄えてしまいます。このため日本人は肥満の程度が軽くても糖尿病を発症しやすいというわけです。
ですから日本人は脂質が少なくインスリン分泌をそこまで必要としない和食が体質に合っており、西洋料理のような高脂質・高炭水化物な食事に体がついていけない人が多いのです。
人種の違いは脂肪のつきやすい場所にも表れます。欧米人は皮下脂肪がつきやすく、体全体が大きくなります。対して、日本人は内臓脂肪がつきやすいという傾向があり、お腹だけぽっこり出やすいのです。内臓脂肪が増えてしまうと、血糖値が下がりにくく、ブドウ糖や脂質の代謝異常が起きやすくなり、糖尿病になりやすいというわけですね。
関連記事:6人に1人が糖尿病予備軍?『糖尿病の原因は糖質』なの?
糖尿病をそのままにしておくと…
糖尿病の合併症は全身の血管が侵される病気です。なかでも糖尿病の3大合併症と呼ばれる腎臓の機能が低下する糖尿病腎症、視力が低下する糖尿病網膜症、感覚の異常などを引き起こす糖尿病神経障害リスクが高まります。
その他にも血糖値が高いことで血管に障害が起きて動脈硬化や心筋梗塞や脳梗塞という重大な病気にも繋がってしまうこともあるのです。
実際の糖尿病治療食ってどんなもの?
糖尿病患者の食事メニューの考え方
医師が患者ごとにカロリーを指定して管理栄養士が栄養指導をするもので、1食あたり炭水化物50〜60%、タンパク質20%未満、脂質25〜30%という目安で食事を構成しています。みなさんがイメージしやすいように言うと、炭水化物として白米はお茶碗の8分目、タンパク質として、豚の生姜焼き2~3枚程度、この他に副菜やお味噌汁なども添えてバランスの取れた食事になるようにしています。
糖質制限ダイエットは、主食(炭水化物)の見直しからはじめよう
毎日食べるごはんだから。続けることが何より大事だから。
私たちの日常の食生活で、最も多くの糖質(炭水化物)を摂取しているのは、ごはん、パン、麺といった「主食」からです。その主食の「ガマンしない、ムリしない」糖質とカロリーのコントロールが、糖質制限やダイエット成功のカギを握っていると言えます。
お茶碗1杯、レタス約半玉分の「食物繊維」を含む、GI値を抑え、「糖質とカロリーがカット」されたこんなお米もあります。
糖尿病患者にとって重要な食事療法
カロリー制限食以外に、最近では糖質制限食(低炭水化物食)という食事療法を取り入れている病院もあります。糖質制限食とは、できる限り糖質の摂取量を少なくしておかずを中心に食べて食後の血糖値の上昇を緩やかにして、体重を減らそうとする食事法です。糖質制限は短期間で血糖コントロールが改善し、ダイエットの効果も期待できます。
また、糖尿病患者のなかには、糖質制限によりケトン体が過剰に増えるケトーシスという状態になり、臓器障害や意識障害につながることがあります。糖尿病患者が糖質制限を行う場合には必ず主治医と相談するようにしましょう。
もちろん糖質を摂りすぎている方には糖質摂取量を正常範囲に収めるよう指導しますが、実施するのであれば過剰な糖質制限ではなく夕食の白米を少なめにするといった緩やかな糖質制限をおすすめします。
そして、野菜やおかずを先に食べたり、食べるスピードをゆっくりにしたり、食物繊維をしっかり摂ったりすること、そして運動を組み合わせることで食後の血糖値の急上昇を抑える効果もあります。
関連記事:糖質だけ気にしてもダメ?『GI値』そして今注目の『GL値」って何?
糖質摂取量で気をつけておきたいこと
最近では患者さんの高齢化が進んで食が細い方が増え、炭水化物をもっと食べるよう指導することが増えてきました。もちろん糖質の摂りすぎはよくありませんが、糖質は体を動かしたり、脳を働かせたりと重要なエネルギー源。体力が必要な高齢者には必要な栄養素なのです。
糖質やタンパク質など特定の栄養素に対して「これは絶対に食べちゃいけない」などとガチガチになる必要はありません。白米も野菜もお肉もバランスよく食べることが大切なんですね。
朝食抜きと早食いが糖尿病のリスクを高める!
もうひとつ糖尿病にならないための大切なことを伝えます。「早食い」と「朝食抜き」は糖尿病の発症リスクを高めるということです。また、加工肉、高脂肪乳といった食品を摂りすぎると糖尿病の発症リスクが高まります。特定の栄養素を増やしたり減らしたりするのではなく、全体のカロリーを控えてバランスのよい食事を摂ることを意識してください。
これまで糖尿病は食べ過ぎた人が発症するというイメージを持たれてきましたが、実はそうではなく遺伝的な素因も大きいと考えられています。インスリンを分泌する力は遺伝しやすいので、同じ食事をしていても糖尿病になる人とならない人がいます。家族に糖尿病患者がいる人はリスクがあることを意識して緩やかな糖質制限や健康的な食事パターンを心がけましょう。
ゆるやかな糖質制限で健康的な食事パターンを
おすすめなのは、夕飯の糖質を減らすこと。夜は1日の中で最も活動量が少なく、脂肪を蓄えやすいといえます。ですから「午後5時から糖質制限」はとても理にかなったダイエット法です。糖尿病は食事だけではなく運動習慣の有無も関わってくるので、運動習慣を持つことも大切。なんでもやりすぎず、ゆっくり、緩やかな糖質制限を楽しんでほしいと思います。
バランスよく食べるってことが大事なんだね。
野菜もしっかり食べて、そのお腹どうにかしろよな!
監修
医師・大学教授
福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科学 川浪 大治
・1998年 福岡大学医学部医学科卒業
・1998年 虎の門病院 内科研修医
・2004年 東京慈恵会医科大学 大学院博士課程修了
・2013年 同 糖尿病・代謝・内分泌内科 講師
・2018年 同 准教授
・2019年 福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科学 教授
現日本内科学会、日本糖尿病学会、日本内分泌学会の専門医として診療に従事。
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